心
心
一口に障害者といっても、色々なタイプの人に分かれます。
元々は健常者であったのに、病気や事故が原因となって障害者となる人。
先天的に障害をもって生まれてくる人。
私の弟の場合は、先天的な方で、体と脳。その両方に障害を持っています。
ですから歩けませんし、勉強もできません。手も思い通りには動きません。学習レベルでいえば、小学校1年生のレベルにも、ついていけないでしょう。
でも幸いな事に、しゃべる事はできます。
会話をする事もできますし、面白い事を言う事も出来ます。テレビの内容も、あるレベルまでは理解しているように思えます。
ただ、健常者と同じようにしゃべる事が出来るかというと、またそれは違います。会話する事が好きなので、親戚の人などにも一生懸命しゃべりかけたりするのですが、長文ともなると、なかなか普通の人には、理解できなかったりして、見ていてそれは、もどかしかったりします。それに家族でも、会話の意味を、なかなか理解ができなかったりする事があります。
ただ、私が小学生位の時は、弟の言う事は何でも理解ができたような気がします。
親が理解できない事でも、私には伝わったので、親に訳してあげる事がありました。トイレに行きたいとか、そういう事も私には伝わってきました。
それで、弟も私の言うことはきいてくれますので、小学校の時に私が1から20までの数や、一桁の足し算等を教えてあげた事があったのです。
弟もがんばって覚えてくれて、なんだか明るい未来が見えたような気がした事がありました。このまま少しずつ学習して行けば、健常者のレベルに近づく事も可能なのではないかと思った事もあったのです。
でも、ある日突然、発作がおきるのです。
全身がけいれんをして、止まらなくなるのです。
毎日3回、薬を忘れずに飲んでいれば、あまり起きないのですが、何かの事情があって飲み忘れたりする事があると、けいれんが始まるのです。
薬を飲ませれば、やがて収まっていくのですが、それには代償が伴います。
けいれんが起きると、知能が数年前に戻るという話もあり、折角憶えた算数も解らなくなってしまったりするのです。薬の服用自体も、脳に対しては良くないでしょう。
ですから、そんな足し算も解らない弟の心の中がどうなっているのか、私自身も疑問に思った事があります。
体も知能も障害を持っているという事は、心も障害を持っているのではないかと思ったのです。
例えば、唯物論的に、心は脳の作用だと考えたとします。
今この瞬間に、我々は色々な事を考える事が出来ますが、果たして弟の場合はどうなのだろう?と考えたりした訳です。
弟の心の中には、どういう世界がひろがっているのだろう?
自分の将来を考えたりする事もあるのだろうか?
そこには果たして、人格のようなものがあるのか?
弟の事について、真剣にそのような事を考えた事があります。
何故なら弟は、障害があるにしては、明るすぎます。
良く笑うし、誰からも愛されるのです。
弟は頭がおかしいから、あんな風に明るく人に振舞う事ができるのかなとか、やっぱりゼンマイが壊れているから、あそこまで人間好きなのかなと思う事もあって、弟の心の健常性に、疑念を抱いていた事がありました。
ひょっとしたら、心自体が存在しないのではないか、とすら思ったのです。
それで弟は、小学校からは、療育センターという、家から車で1時間位かかる施設に入る事になって、土日だけ家に戻る生活をしていたのですが、私は、都合の付くときは、可能な限り、車での送り迎えに付き合っていました。
日曜日の送りの際は、施設まで送って、療育センターの先生が、車イスの弟の隣りで付き添ってくれている状態の時に、「バイバイ、また来週」と言って、別れるのです。
弟はその日も、いつもの満面の笑みで「バイバイ」と言ったのです。
こちらも「バイバイ」と言って、去っていこうとしました。
そしたら、弟の満面の笑みが、みるみる崩れていったのです。
「バイバイ」の声も壊れていきました。
それでも、必死に笑顔をつくろうと頑張っていました。
やがて、顔は車椅子の中で下を向き、その不自由な手で、顔を覆い隠しました。
付き添いの先生は、弟を慰めました。
母親は振り切るように、「行こう」と、私に声をかけました。
私はその瞬間、弟にも同じように「心」があるという事を確信しました。
心が、そして理性が、感情をコントロールしようと努力していたのです。
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